粒状改良土液状化試験結果

社団法人 日本建設規格化協会
建設の施工企画7 2006 JULY No677より転載


振動台による粒状改良土の耐液状化抵抗性能確認実験


中山隆弘・早坂 裕


 周知のとおり,2004年10月23日の新潟県中越地震の際には,埋設管の敷設に伴う人工地盤の液状化 によって下水マンホールの浮上が相次ぎ,至るところで道路の通行に支障が出た。
 また,近年,建設残土の処分地の確保や,山砂の確保のために山を切崩すことによる自然破壊等の問 題が深刻な社会問題になりつつある。
 本報文で述べる粒状改良土は,主にそれら二つの問題を解決するために開発されたものであるが,こ れまで,その耐液状化強さについては十分な検討がなされていなかった。
今回模型地盤による振動台実験を行った結果,本粒状改良土は,粒度分布の改良のみを考えて製造さ れた山砂よりも極めて高い耐液状化抵抗性能を有していることが確認できた。
   キーワード:地震,埋設管,埋戻し土,粒状改良土,山砂,液状化,振動台実験,間隙水圧

1、緒言

 周知のとおり,土木工事や建設工事から発生する建設発生土は,都市化の進展と共に年々その量が 増加している。一方,狭隘な都市あるいはその周辺では,その処分地の確保が極めて難しく,近年,処 分地の遠隔化や不法投棄などが大きな社会問題のひとっとしてクローズアップされている。
 また,これまで上水道や下水道などの埋設管の敷設時における埋戻し材には山砂が用いられることが 多かったが,山を切崩すことによる自然破壊も深刻な社会問題になりつつあり,地方公共機関において も山砂を埋戻し材としての利用を極力少なくすることが行動計画の柱になりつつある。
 このような背景を踏まえて,近年,建設発生土に水溶性のアクリル樹脂を加えて土を球状にし,さらに 微粉の生石灰を添加することにより,2~3日間の養生で固化させる粒状改良土が開発された。
 この粒状改良土は透水性に優れ,良質な砂と同等の地盤支持力を有し,乾いた砂のような性質を持っ ているために,液状化に対して強いといわれているが,これまでその確認実験がなされたことはない。  そのため,今回,振動台による室内実験を実施して,併せて行ったごく一般的な山砂の耐液状化強さと の比較を行った。
 現時点では定量的に十分な考察ができるまでには至っていないが,それでもアクリル樹脂を加えること による効果は山砂に比べて極めて高いことが確認できた。

2.粒状改良土の概要

 前述のとおり,実験対象とした改良土はこれまでの石灰のみで処理した改良土と違い,アクリル樹脂も 加えて固化するもので,固化した改良土は石灰改良土よりも水場に強いという長所を有している。また, 比較的含水比が高い粘性土にも適用できるという有利性も兼ね備えている。

(1)製造フロー

 本粒状改良土の製造の大まかなフローは次に示すとおりである。すなわち,
①原料土をホッパーに投入する。
②投入した原料土に含まれる40mm以上の大塊をローリンググリズリーによって除去する。また,磁力選鉱 機によって鉄くず等も取除く。
③定量フイーダによって40mm以下の粒径から成る土をパドルミキサーに送る。そして,適切な量のソイ ルハード(水溶性のアクリル樹脂)を添加する。
④パドルミキサーで,土とソイルハードとを攪拌し、土を造粒させる。
⑤ローリングミキサーで造粒が終了した土と生石灰の粉末を混合し,土粒子の表面に石灰粉を付着させる。
⑥ミキサ篩により粒度調整を行う。
⑦2~3日間養生する。
の流れで,建設発生土から埋戻し土として優れた性質を持っ粒状改良土が製造される。

(2)特  徴

 本粒状改良土の主な特徴をまとめれば次のようである。
①原料の土質を選ばず,日本統一土質分類のシルト質砂(SM)から火山灰粘性土(VH)までが対象となる。
②高含水比の発生土の再利用が可能である。
③改良土は粒状であり,製造過程で粒度調整が可能である。
④雨水などの水を被っても,改良土の透水性は川砂と同程度であり,したがって,野積みによる養生が可能である。
⑤良質な砂と同等の地盤支持力を有している。
⑥埋戻しおよび締固めが容易で,かっ,再掘削が可能である。
⑦有害物質の溶出は環境基準に定められた値以下であるため,環境に対する安全性が確保される。
⑧一般的な発生土に比べ比重が軽いので,運搬および作業効率が高い。


(3)強度特性

 細粒分が多く,粘性が強い関東ローム(粒度組成:砂分6%,シルト分33%,粘土分61%,液性限界136%, 塑性限界69%,土粒子密度2.66%,含水比92%)を原料とした粒状改良土に対する室内CBR試験の結果によれば, 改良土の地盤支持力は良質な砂と同等であると判断できる。
 また,三軸圧縮試験の結果によれば,見掛けの粘着力は2.54N/c㎡(0.26kgf/c㎡),せん断抵抗角 は32.3°であった。
 さらに,同じ関東ロームを用いてソイルハードを0.1%,生石灰を5%加え,7日間養生した改良土に対 するコーン指数試験結果は27であった。ただし,この値は,標準貰入量による貰入抵抗値の測定が不可 能なため,2.5cmの貰入量に対する参考値である。

(4)粒度特性

 今回の実験で用いた粒状改良土の,地震時の液状化に大きく影響する粒径加積曲線を図-1に示す。















(5)透水係数

 同じく今回の実験で用いた粒状改良土の透水係数は,川砂に近い4.4×10ー3m/sである。

(6)その他

 これまでの3年にわたって行われた追跡調査によれば,貫入強度,沈下量,粒度特性における本改良 土を利用した地盤の耐久性についても実用上問題ないことが明らかにされている。
 また,施工性においても,すき間への充てん性,水締めの点で,さらには,転圧性についても,良質 な砂地盤よりも転圧しやすいとの結果が得られている。

3.振動台実験

(1)振動台の特性

 加振装置である振動台は,広島工業大学耐震防災研究棟に設置されている油圧サーボ式水平垂直二 軸振動台(島津製作所製EHVー5Ⅹ/4z)である。
 テーブルのサイズは幅と奥行きが1.5mの正方形で,最大積載重量は2トンである。今回は水平方向の みの加振を行ったが,その場合の最大加振加速度は約2Gである。

(2)せん断土槽

 実験で使用した土槽は、図-2および写真1に示すせん断土槽(内部0.9m×O.9m,深さ0.45m)である。

 

 この土槽は軽量型鋼を8段積重ねて造られており,枠と枠との問にはベアリングが入っている。そのた め,振動時には各枠が独立して振動し,内部の模型地盤の水平運動を拘束しない。これを利用すること によって,特に小型模型地盤による振動実験に悪影響を及ぼす側壁の存在の影響を小さくすることがで きる。

(3)測定項目およびデータ計測システム

 測定項目は,図-2に示したとおり,振動台1箇所と模型地盤2箇所の計3箇所に設置した小型加速度 計(KyowaASー1GB)(写真-2)による各々の水平加速度と,せん断土槽の壁側3箇所に貼付した小型 間隙水圧計(SSK P 306 Aー02)(写真-3)による間隙水圧である。
                                                   

 

 各センサからの信号はすべて振動台近くの計測室に設置された動ひずみ計を通してAD変換用ボード を有するパーソナルコンピュータに収録した。

(4)模型地盤

 本実験では粒状改良土と,粒度分布を調整して製造された山妙に対する振動実験を実施した。
 各試料の物理的性質を表-1に示す。                        

 

 

 また,図-3は山砂の粒径加積曲線である。表-1および図-1と図-3との比較により,両試料の物理 的性質が大きく異なっていることが分る。


 さて,模型地盤は,1層毎に写真-4に示す器材で,約20cm毎に締固めた計2層から成る深さ40cmの地 盤で,四隅に設けた細い管から長時間にわたって極めて緩やかに水道水を送り,ほぼ飽和状態を実現し た。ただし,今回は模型地盤が完全な飽和状態か否かを十分に確認するまでには至っていない。

(5)実験ケース

 今回は基礎的な実験であるため、水平方向の正弦波加振実験のみを行った。
 まず,両地盤の共振曲線を描くために,できるだけ地盤を乱さないように微小な加速度振幅で,加振周 波数のみを1Hzから10Hzまで1Hz刻みで上げていき,振動台と地盤表面の応答加速度を測定した。
 次に周波数を3Hzに固定し,液状化が発生するまで加速度振幅を50ガルから上限を設けず,50ガル刻 みで上昇させた。
 なお,本実験の主目的が,埋戻し材としてよく利用されている山砂と本粒状改良土の耐液状化強さの比 較にあることから,液状化の判断は簡単のために目視によって行い,おおよそ液状化したと思われる際 の加速度を耐液状化強さとした。

(6)実験結果

 ここでは,本報文の目的が粒状改良土の耐液状化強さを示すことにあるので,模型地盤の動的特性を 現す共振曲線については省略し,まず,粒状改良土に対する実験結果を図-4(a)~(c)に示す。
 図中のzは模型地盤表面からの深さである。それぞれ加速度振幅が100ガル,300ガル,450ガルに対 する正弦波(実験時の振動台の性能上,実際に得られた波形は三角波に近い振動波形であった)に対 する結果で,間隙水圧の時間的変化を示している。
 さて,図一4(a)と(b)より,100ガル程度の加速度レベルの加振に対しては深さによらず間隙水圧の変 化ははとんど無いことが理解できるが,300ガル程度になると,加振直角方向も含めて,振動地盤の複雑 な振動を表すような変動を示してことが分る。ただし,間隙水圧の大きさに大きな変化はなく,じじっ,液 状化の発生は見られなかった。
 しかし,450ガルの加速度振幅の振動に対しては写真-5に示すように液状化が発生し,そのときの間 隙水圧の変動は図-4(c)のようであった。なお,図から分かるように,まったく予想をしていなかったこと であるが,この場合,負の間隙水圧が生じている。この原因については,上述のように振動時における土 槽内部の模型地盤の複雑な挙動が原因であると思われるが,いまのところ究明できていない。
 一方,山妙に対する実験結果が図-5(a)~(b)である。それぞれ,加速度振幅が50,150ガルに対する 結果である。
 まず図-5(a)から分るように,50ガルに対しては間隙水圧の変化は全く見られない。紙面の都合で図 は省略したが,100ガルの場合でも,最深部の間隙水圧にかなりの上昇が見られるものの,液状化する までには至っていない。
 このように、せん断土槽による実験であることから厳密な定量的比較は難しいが、液状化を起した加速 度で単純な比較を行えば、約150ガルで液状化を起した山砂に比べ、粒状改良土のそれは約450ガルである。


図ー4 粒状改良土における間隙水圧の変動                                             

 

 

 

 

 したがって,粒状改良土より成る模型地盤の耐液状化強さは,山砂に比べて相当高い性能を有しているものと考えられる。


                 図ー5 山砂における間隙水圧の変動                 

 

4.結言

 今回の実験により,山砂に比べ,粒状改良土が非常に優れた耐液状化性能を持っていることを確認できた。
 これは主として両者の粒度分布の影響だと考えられるが,今回は種々の制約条件によって模型地盤の 飽和度や飽和単位体積重量などに対する詳細な土質試験が行えず,これらの物性が耐液状化性能に 及ぼす影響1)、2)を検討できていない。これらを踏まえてより定量的な検討を行うことが今後の重要な課 題である。

謝  辞

 本実験に必要な諸費用については,オディクリーン工法協会,ダイヤニトリックス株式会社,菱光石灰 工業株式会社,有限会社光輪産業から多大なご支援をいただいた。
 また,株式会社大林組技術研究所からは前述のせん断土槽を貸与いただいた。記して深甚なる謝意を表する。
 本研究を進めていくにあたり,広島工業大学工学部建築工学科・宮崎祐助教授には終始適切なご指 導,ご教示を賜った。
 さらに,広島大学工学部・加納誠二助手,株式会社大林組技術研究所建築基礎研究室室長・石井雄輔 氏,同土木構造研究室耐震防災グループ副主査・樋口俊一氏からは実験方法に対する有益なご示唆を いただいた。
 加えて,前田建設工業株式会社中国支店営業部課長・渋川克宏氏には山砂の入手にご尽力いただい た。衷心より御礼を申し上げる。
 なお,実験およびデータ整理に当たっては,実験当時,広島工業大学大学院工学研究料土木工学専 攻1年であった溝畑陽一氏をはじめ,同工学部建設工学科4年であった佐々木優一氏,丹生谷文太氏の 協力を得た。深く感謝する次第である。

             《参考文献》

1)足立紀尚・龍岡文夫:土の力学(Ⅲ),新体系土木工学,18,土木学会編,技報堂出版,1981.8
2)吉見吉昭:砂地盤の液状化(第2版),技報堂出版,1991.5